ウォール街のビジネスマンの間では今、瞑想がトレンディーだ。オンラインのブルームバーグでは、ビジネスマンが変動する経済のなかで平静を保つために瞑想を行っている、と報道している。
以下は、ブルームバークの日本語版から、超越瞑想に関する記事の一部を抜粋した。
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1月の終わりごろに株と債券相場が急落した時、ヘッジファンド運用者のデービッド・フォード氏は平静を保った。
新興市場のメルトダウンを目の当たりにし、米経済が落ち込むとの警告も耳にした。しかし同氏は下げ相場から逃げ出すという群集心理に負けず、社債を買い増したと、ブルームバーグ・パースーツ誌(2014年夏季号)が報じている。
同氏は自身の平常心を、トレーダーとしての20年の経験はもちろんのこと、毎朝20分行う瞑想のおかげだと考えている。フォード氏(48)は「超越瞑想」の指導者から2年前に与えられたマントラ(真言)をパジャマのままでとにかく唱える。
「市場の乱高下に対し、以前よりずっと冷静に対応できるようになった。忍耐力が高まった」と同氏は話した。
同時に、お金も増えた。同氏のイベントドリブン型クレジットファンド、ラティゴ・パートナーズの昨年の成績はプラス24%。債券ファンドで、急騰した株式にほとんど勝つほどのリターンを上げた。
レイ・ダリオ氏やポール・チューダー・ジョーンズ氏、マイケル・ノボグラッツ氏といった大物ヘッジファンド運用者を含め、「瞑想」によって頭脳を研ぎ澄まし、運用成績を高めようとするトレーダーが増えている。著名投資家ダニエル・ローブ氏も2月に、米首都ワシントンでチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世とともに語った際、瞑想の意義を強調した。
闘争・逃走反応
ハーバード・メディカル・スクールの神経科学者、サラ・ラザー氏が05年に発表した研究は、瞑想が前頭前皮質を発達させ、ニューロン結合を増やしたり血管を広げたりするらしいことを示した。この脳領域は知覚情報の処理や合理的判断をつかさどり、へんとう体を調節する。へんとう体は戦うか逃げるかを問う闘争・逃走反応を制御するので、ここをコントロールすることでフォード氏はパニックに陥らずに債券を買い増せたのかもしれない。
「超越瞑想」はマントラを唱えることで、心を最も静かな状態に落ち着かせる。マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーが創設した瞑想法で、1968年にビートルズがマハリシから学ぶためにインドを訪れたことはよく知られている。
瞑想の効果については諸説あるが、これがウォール街にたどりついたのはある意味で輪廻が一巡したとも言えそうだ。ゴータマ・シッダールタ(ブッダ)は富を捨てて瞑想した末に悟りを開いた。トレーダーらは富を得るために瞑想する。例えば、ダリオ氏は世界最大のヘッジファンド会社を経営し、ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば個人資産は140億ドル(約1兆4300億円)。金もうけへの瞑想の効果を説く同氏は、自身の成功の最大の要因が瞑想だと述べている。
社員の費用を負担
ダリオ氏(64)は瞑想の効果を強く信じているので、自身のヘッジファンド会社ブリッジウォーター・アソシエーツの従業員が超越瞑想の指導を受ける費用の半分を負担している。もっとも、同氏が追求しているのは悟りではなく、他者に対する優位性らしい。同氏は2月にパネル討論会で、瞑想している時は「戦っている忍者のように感じる。相手がスローモーションで動いているように感じる」と語った。
もう1人のヘッジファンド界の富豪、チューダー・ジョーンズ氏も母校のバージニア大学に瞑想の効果などを研究する「コンテンプレイティブ・サイエンス・センター」を設立する資金を出した。
ニューメキシコ州サンタフェのウパヤ・ゼン・センターで指導するジョーン・ハリファックス氏は、金融界の大物たちが瞑想を仏教の本来の目的とは違う目標のために使うことに懸念を示す。「もっと多くの人から搾取して金をもうけるために心を研ぎ澄まそうとしているのではないか。それとも、より公正な金融システムづくりに関心があるのだろうか」と同氏は問い掛けた。
少なくともダリオ氏は、ウォーレン・バフェット氏とビル・ゲイツ氏が始めた金持ちたちの慈善プロジェクト「ギビング・プレッジ」に資産の大半を寄付することを約束した。
富を寄付するためにはまず稼がなければならない。金融界の鋭い頭脳の持ち主たちは瞑想がそれに役立つと考えている。