多くの瞑想法の中で独自の特徴を持つのが超越瞑想だ。やり方は簡単で自動的だが、その有効性は膨大な数の研究論文によって確認されている。
この瞑想法を世界に広めたマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーは、1960年代から超越瞑想について研究者に調査するよう呼びかけてきた。
その結果、今では研究論文の数は600を超え、その有効性が教育、健康、人間関係、環境といった広範囲に渡ることが実証されている。
イタリアで行われた最新の研究では、超越瞑想の実践が脳にどのような変化を与えるのかをfMRI画像を使って分析している。以下は、この研究を取り上げたMedical News Todayの記事の抄訳。
◆ ◆ ◆
超越瞑想──TMは、1日2回20分、目を閉じて座り、マントラ(瞑想に適した言葉)を思う瞑想法だ。TMの実践は、心の健康に効果があることが知られているが、これまでその理由は十分に解明されていなかった。
新しい研究では、超越瞑想が引き起こす脳の変化に光を当てている。
TMは他の瞑想法と違って何かに集中したり、何かを思い描く必要がない。その代わり、意味をもたない言葉、マントラを用いている。実践者は静かにマントラを思い、心が自然に超越していくのを許す。すると心と体はより目覚め、リラックスするという。
規則的な実践によって得られる効果の一例として、毎日の生活の中でストレスや不安感の減少が見られる。
これまでの研究結果
超越瞑想の効果は、多くの科学的研究によって実証されてきた。例えば、『Military Medicine』に掲載された2013年の研究では、現役の軍人の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に適した治療法として取り上げられた。
また、2014年に『The Permanente Journal』に掲載された研究では、TMには学校の教師の精神的な苦痛を和らげる効果があると結論づけている。
同じく同誌に掲載された2016年の研究では、TMを実践した刑務所の受刑者のトラウマ、不安、うつ病の症状が有意に改善したことを示していた(日本語記事)。
ある研究分野では、短期間の効果だけでなく、TMをより深く研究し、どのように役立つのかを正確に調査しようとしている。
そして最近、『Brain and Cognition(脳と認知点)』に発表された新しい研究結果では、TM実践者の脳機能に測定可能な変化が見られることが発見された。
ストレスと不安の軽減
この研究は、イタリアのIMTスクール分子心研究所で行われたもので、被験者は34名。そのうち19名は、3ヵ月間、1日2回(午前1回、午後1回)、20分ずつTMを行い、残りの15名は、これまで通りの日常生活を続けた。
この研究では、初めに各被験者がストレスの多い状況に対処できるかどうかを調べる心理測定のアンケートを行っている。また、被験者全員にfMRI(脳の機能的活動を画像化するMRI)を実施し、脳の様々な領域間の機能的なつながりを測定した。
そして3ヵ月後に各被験者は再びfMRI検査を受け、アンケートに答えた。
3ヵ月間、毎日TMを実践していた被験者は、明らかにストレスや不安を感じることが減少していた。「特に、心理測定の結果、超越瞑想の実践を続けることで、瞑想者のグループは、精神的な回復力や社会的能力の障害となるうつ病、不安、ストレスの減少が見られた。」と論文は説明している。
さらに、fMRIスキャンの結果は、TMによる不安感の減少が、脳の楔前部、左頭頂葉、ライル島など、様々な領域同士のつながりの変化と関連していることを示していた。楔前部、左頭頂葉、ライル島は、感情や内面の調整に重要な役割を果たしている領域だ。
「TMを実践していないグループでは、こうした変化は観測されなかった」と論文の第一著者ギウリア・アヴェヌティは指摘する。
超越瞑想は脳の素早い変化を生み出す
この研究のコーディネーターであり、IMTスクールの校長であるピーター・ピエトリーニ博士は、これらの研究結果は、脳と心の間のつながりに関するさらなる疑問を提示することになるだろうと述べている。
「この研究は、超越瞑想が感情の調整に関与する脳の構造同士のやりとりに影響を及ぼしていることを示しています。こうした事実は、脳と心の関係を理解するための新たな視点をもたらしました。」
この研究結果から、TMが非常に素早く脳や感情に具体的な影響を及ぼすことが明らかになった。
ピエトリーニ博士が説明するように、彼のチームの調査結果は、薬物療法と心理療法が同じ生物学的メカニズムで活用できることを示す最近の研究結果を拡張したものといえる。
今後の研究では、こうした生物学的経路を扱う様々な手法の効果を調べることになるだろう。