権威のある学術誌「ザ・ランセット・サイキアトリー」に瞑想の科学研究が掲載されました [2020.8.21]

超越瞑想により退役軍人のうつとPTSDが減少

■ PTSDについて

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなって、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるものです。
震災などの自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害などが原因になるといわれています。

WHOによる世界精神保健調査によると、日本においては一生のうちにPTSDになる人は1.1~1.6%ですが、20代から30代前半では3.0~4.1%と高い割合になっています。

PTSDの治療法として、「持続エクスポージャー療法」というものがあります。
トラウマとなった場面をあえてイメージしたり、これまで避けていた記憶をよびおこすきっかけにあえて身を置くようにする治療法です。
こうすることで、思い出しても危険はない、怖いことはないということをそれこそ肌身を通じて感じ取っていくのです。
この治療は、専門の治療者の立ち会いのもとに今の状況が安全であることを患者さんがよく理解したうえで行う必要があります。

「思い出すことが治療につながる」という知識だけで十分な経験のない人が患者さんに記憶の再体験をうながすと、かえって不安が強まって症状が悪化することにもなりかねません。

ほかにも、考え方やこだわりを見直して別の視点で物事を考えるように導く認知療法や、眼球を動かしながらトラウマとなった経験を思い出す「眼球運動脱感作療法」や、PTSDの人が数名で自分の悩みを語るグループ療法など、様々な方法があります。(厚生労働省  みんなのメンタルヘルスより)
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_ptsd.html
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_ptsd.html

■ 超越瞑想によるPTSDの減少の科学的研究

The Lancet Psychiatry journal, Nov 15, 2018(ザ・ランセット・サイキアトリー)に発表された新しい研究によると、PTSDの退役軍人で超越瞑想テクニックを学んだ者は、代表的な持続的暴露セラピーを受けたグループに比べて、PTSD症状を有意に減少させた。超越瞑想と暴露セラピー治療は、PTSDの健康教育の対照群に比べて有意により効果的であった。 

マハリシ経営大学社会的感情的健康センターのディレクターでこの研究を主導したサンフォード・ニディッチ教育博士は、「PTSDは複雑で治療の難しい障害であり、退役軍人の10から20パーセントに影響を与えている」と言っている。「この試験研究は、トラウマに焦点を当てていないセラピーである超越瞑想が退役軍人のPTSD症状を減少させる実行可能なオプションであるというエビデンスを与えた。」エビデンスに基づく追加のPTSDセラピーの利用可能性は、より広い範囲の最初の治療法オプションと、暴露に基づくPTSDセラピーに反応しない人たちに対する代替治療法の両方を提供することによって、患者たちに役立つだろう。

無作為化対照試験は、VAサンディエゴ・ヘルスケア・システムにおいて、203人の退役軍人を、長期暴露、超越瞑想、対照群の健康教育のいずれかに割り当てた。それぞれの治療は12週間に12セッションであり、毎日家での実習が含まれた。この研究の目的は、超越瞑想と長期暴露を非劣性臨床試験で比較することと、両者を健康教育の注意コントロールと比較することであった。研究では、PTSD症状の変化をClinician-Administered PTSD Scale (CAPS) で3か月間にわたって測定した。


上記で述べたような全般的なPTSD症状の減少に加えて(下のグラフも参照)、超越瞑想に割り当てられた退役軍人の61%が臨床的に有意なPTSD症状の改善を示した。これに対して、長期暴露では42%、健康教育では32%であった。臨床的に有意な改善は、CAPSで10以上のポイントの減少と定義されている。

さらに、論文に示された結果は、健康教育対照群に比べて、超越瞑想群では、うつと気分障害の有意な減少と生活の質の改善があったことを示している。自己申告のPTSDチェックリストの軍バージョンの管理は、CAPSのインタビュー結果で裏付けられた。

「ニディッチらによるこの研究は、退役軍人におけるPTSDの減少における超越瞑想プログラムの効果を報告することで、この分野を進めた。この発見は、超越瞑想は少ない介入の内の一つであり、その利点は即座に軍の医療でのケアの改善になること、また、広く普及すれば重要な健康のインパクトを持ちうることを示唆している。軍の文化と調和して、超越瞑想テクニックは自己管理でき、自己に力を与えるものであり、完全に持ち運ぶ可能で、目立たないものである。」とオーガスタ大学のヴェルノン・バーンズ博士は同じランセット・サイキアトリーの論評で語っている。

防衛省の米軍医療研究は、この研究に240万ドルを出資した。この査読付の記事の表題は、「PTSDの退役軍人における、トラウマに焦点を当てていない瞑想と暴露セラピーとの比較:無作為化対照試験」である。この研究の要約は、The Lancet Psychiatryのウェブサイトに掲載されている。The Lancet Psychiatry は、世界的に有名な精神医学誌である。
https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanpsy/PIIS2215-0366(18)30384-5.pdf

【ヴェルノン・バーンズ博士の論評】
https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanpsy/PIIS2215-0366(18)30423-1.pdf

VAサンディエゴ・ヘルスケアシステムとカリフォルニア大学サンディエゴ医学部、ジョージタウン大学医学部、マハリシ経営大学研究所がこの検査で協力した。予備調査結果は以前に、フロリダ州オーランド市で2017年9月開催の国防省支援のミリタリー・ヘルス・システム研究シンポジウムで発表された。

下記は、超越瞑想テクニックに無作為に割り当てられた退役軍人たちが書いた「患者からの視点」からの二つの抜粋である。

33歳の男性海軍退役軍人である患者は、イラクとアフガニスタンでの数回の任務の後にうつとPTSDと診断された。「私には、いつも、眠れないという問題がありました。私の心は後悔と不安で曇っていました。ある時には、死んだ方がましだ、そうすればそれに関わらなくてもよくなると考えました。」 彼は超越瞑想を学び、間もなく夜中眠れることに気づいた。「今は心は以前のように曇っていません。超越瞑想のおかげで、ストレスが減り、元気になりました。規則的に実習することで、自分を管理することができ、楽しい人生を過ごすことができます」と彼は語っている。

もう一人の研究参加者は32歳の女性海軍退役軍人で、軍の性的トラウマと診断され、それが除隊後にPTSDに発展した。「私は孤独から感じる寂しさの痛みをマヒさせるために過剰な飲酒をしていました。家から出たりドライブに行ったり、どんなことでも、人と交わることを恐れていました。」瞑想後2,3日で彼女は「落ち着いてきました」と報告した。そして、それに続く週には、「信頼と治癒が始まりました。車の運転を始め、コミュニティー・カレッジに通い始めました。超越瞑想プログラムは、私の人生を取りもどしてくれました。」