ポール・ダリオは、病気と苦闘した実体験に基づいて、双極性障害(躁うつ病)を患う二人の詩人の恋愛をつぶさに描いた傑作映画の脚本・監督を手がけた。彼の初の長編映画となる『タッチト・ウィズ・ファイア』は、単に芸術的表現にとどまるものではありません。
映画『タッチト・ウィズ・ファイア』
この映画は社会の変化の必要性を訴え、双極性障害をもつ人々が現在どのように見られ、扱われているかという問題に向き合うよう観客をうながしています。
本記事では、双極性障害の人がもつ隠れた才能とその才能の開花に役立った瞑想について、まとめました。
偉大な芸術家には双極性障害(躁うつ病)であった人が多い
ダリオがその映画の着想を得たのは、1996年に出版されたケイ・レッドフィールドの本読んでいたときであり、その本の題名を自分の映画のタイトルにすることに決めた。その本には、歴史に偉大な名を残した芸術家には双極性障害であった人々が非常に多かったことの理由が説明されていた。
と、ポール・ダリオは「ハフィントン・ポスト」に語っている。
だが、ダリオは双極性障害であることを恥じる気持ちから離れるにつれて──彼が人生で経験したその段階を主演女優(ケイティ・ホームズ)が表現している──映画の中でルーク・カービーが演じる主人公がそうであったように、彼も自分の症状を美化するだけの段階にとどまることはできなくなった。
双極性障害を抱えながら人生の成功を目指すために、ダリオは、その症状を重荷として扱うことも、また、創造性を奪われることを恐れてその症状の治療を害悪と決めつけることも、やめなければならなかった。
双極性障害(躁うつ病)の薬物治療による感情欠如の悲劇
ダリオは、直接体験から、双極性障害の患者の多くが彼らに処方される薬を嫌がっていることを十分すぎるほど理解していた。
ダリオは、自分の自殺のために家族が苦悩することがないように、薬物治療を受ける決心をしたときの経験を詳しく語っている。
「もし皆さんが何も感じない──感情が麻痺している──状態を想像できるならば、悲しみの感情が欠如した状態を想像してみてください。それは痛みよりも、もっと救いのない唯一の状態です。とても愛している親族の一人が亡くなったのに、その悲しみを感じることさえできない状態を想像してみてください。それは私に起こったことであり、それは薬物治療が原因でした。」と彼は回想する。
と、デヴィッド・リンチ財団が主催した映画の試写会の際にダリオは説明した(以下の動画を参照)。
関連動画『双極性障害とともに発展する』──脚本・監督のポール・ダリオとの対話
瞑想によって、双極性障害の才能が開花!
幸いなことに、デヴィッド・リンチ財団の動画撮影の仕事をしたとき、ダリオは双極性障害をもつ別の人を紹介された。その人は彼に、瞑想のおかげでここ20年間は「80パーセントの時間」を幸せに過ごしてきたと話した。
「双極性障害をもつ人ならば、幸せという言葉を軽々しく使ったりはしません」と、ダリオはハフィントン・ポストに説明した。「嘘やたわ言でその言葉を口にすることはありません。その人は本心でそう言ったのです! 信じがたいことでした。それから、私は必ず1日2回瞑想するようになったのです。」
そして、それは、ポール・ダリオの状況を一変させることになるのだった(事実、TMがダリオに与えた肯定的な影響が非常に顕著であったため、彼の主治医のノーマン・ローゼンタールはそれに触発されて、瞑想が双極性障害に及ぼす影響に関する研究と著作を始めた)。
「TMを始めたおかげで、双極性障害を抱えて生き延びるだけの人生が、双極性障害とともに発展していく人生に変わったのです。なんとか生きていく人生から、本当に開花していく人生へと変化しました。」と、『タッチト・ウィズ・ファイア』の試写会で彼は語った。
しかし、超越瞑想をすることで、そのメカニクスが反転するのをダリオは感じている。そしてそれは一時的なものではない。
「瞑想は落ち着きをもたらすだけでなく、感受性を高め、感情を強くする効果が知られています。それにより、薬物療法の影響を少なく抑えることができるのです。」とダリオは確信をもって言った。
この症状と共に生きるために、ダリオは彼の習慣と日々の摂生を忠実に守る必要があった。
しかし、TMを実践し、リチウムの服用量を少なめにし、早い時間に就寝し、アルコールを断ったおかげで、ダリオは彼の創造的な仕事と家庭生活のなかで感情を経験し、幸福をみいだしている(彼は同業の映画制作者であるクリスティナ・ニコロヴァと結婚しており、夫婦には二人の息子がいる)。
ダリオは瞑想に関する彼の個人的な体験を語っているが、それは、『タッチト・ウィズ・ファイア』で双極性障害を描写した目的と見事に共鳴している。
「病院でこの症状の治療を受けている人たちに聞いてほしいのですが、ヴァン・ゴッホは、あの最も愛されている空の絵をどのように思いついたのでしょうか。人類の遺産として大切にされているあの絵です。療養院の窓の外を眺めていたときに、彼はあの空を実際に見ていたのです。」と彼は語る。
「その事実から、この症状の治療に当たっている人たちが、病気を粉砕しようとするのではなく、天賦の才を支援する方法を学び取ってくれることを願っています。」とダリオは話を続けた。
ソース:Touched with Fire: Dalio’s movie on living with bipolar disorder