コロナ対応で燃え尽きていた医療従事者を癒したプログラム

コロナ患者の多い米国では、医療従事者の約半数が燃え尽き症候群を経験しているといわれている。そうした医療従事者のストレスを取り除くために、超越瞑想を提供するプログラムが米国北東部ニューイングランドの5つの病院で実施された。その模様をUSA TODAYが取材している。

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医療従事者を癒やしたプログラム

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ブラッド・コリンズ医師(左写真)は、瀕死のコロナ患者がiPadの画面を通して、愛する人に最後の別れを告げるのを見守っていた医師の一人である。

数日の休みをとって彼はベッドで寝ていた。彼は疲れ果てていたのだ。皮肉なことに、そんな彼がコロナの最前線にいる同僚のために瞑想プログラムの導入を担当していた。

ロードアイランド州プロビデンスのミリアム病院に勤務するコリンズ医師は、「コロナ病棟で働くことは、本当にトラウマになりましたが、ワクチンが出始めるまで、ほとんどの人がそのことに気づかなかったと思います。」と述べた。

コロナの暗黒時代はまだ続いているが、コリンズ医師は新しい対処法のおかげで、今はずっと元気になっている。彼は超越瞑想を学んだのだ。

米国北東部のニューイングランドの5つの病院が、200万ドルの助成金を受けて、全国規模の「医療従事者を癒やすプログラム」を導入している。それはパンデミックで拡大したストレス、トラウマ、燃え尽きを経験した医師、看護師、医療従事者に超越瞑想を提供するプログラムである。

このプログラムを取り入れたのは、ロードアイランド州プロビデンスのロードアイランド病院とミリアム病院、マサチューセッツ州ニューベッドフォードの聖ルカ病院、ボストンのブリガム&ウィメンズ病院、コネチカット州スタンフォードのスタンフォード医療制度の医療従事者である。 

危機と闘うために、心を整える

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超越瞑想は1950年代にインドで生まれたもので、1日15~20分ほど静かに瞑想を行うものだ。「医療従事者を癒やすプログラム」を指導しているトニー・ネーダー博士によると、これまで超越瞑想に関する幅広い研究が行われており、不安、うつ、不眠などの症状が軽減され、回復力(レジリエンス)や全体的な幸福感が増すことが確かめられているという。

ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学で学んだ医師であり、国際的な超越瞑想の非営利団体を率いているネーダー博士は、「医療従事者は、自分が見たもの、体験したものを内面化してしまうため、大きなストレスにさらされています。彼らは今、多くの痛み、多くの死、多くの涙を目にしているからです」。

この医療従事者のストレスを改善するプログラムは、米国がウイルスの危機と戦い続け、医療部門が悲惨な人員不足に陥っている中で行われている。

「1日2回、20分間の超越瞑想を行うことで、自分自身の心を整えることができます」とコリンズ医師は話している。「私はそれを水がいっぱい入ったバケツに例えています。超越瞑想は、そのバケツを空にして、こぼれないようにするのです」。

今年5月に発表された2万人以上の医療従事者を対象とした全国調査によると、約半数が燃え尽き症候群を経験しており、38%が不安や抑うつに苦しんでいることが明らかになった。こうした状況の中で、医療従事者たちは重症のコロナ患者の治療を続けているのだ。

「今、ワクチンを受けていない患者の新たな波に直面しています。これまでよりも若くて症状の重い患者が増えており、それに伴ってPTSDが発生しているのです」とコリンズ医師は述べている。「それはワクチン接種が行われる前の状況を思い出すことになり、明らかに辛いことです」。

超越瞑想で不安感や燃え尽き症候群が著しく減少

「医療従事者を癒やすプログラム」を率いるトニー・ネイダー医学博士

超越瞑想は、エレン・デジェネレス(コメディアン)やトム・ブレイディ(アメフト選手)などの著名人や、PTSDに悩む退役軍人などに支持されている。この瞑想法は、ストレスや不安、脳機能や心血管の健康に効果があることが証明されており、ハーバード大学医学部、米国国立衛生研究所、米国国防総省、米国心臓協会、米国医師会による研究でその効果が確認されてきた。

「瞑想は喜びや安らぎを感じる時間です」とネーダー博士は言う。「ストレスや問題から解放される時間なのです」。

ブリガム&ウィメンズ病院、デューク大学医療センター、フロリダ州マイアミの3つの病院で行われた試験の結果、超越瞑想を実践する医師や看護師の不安感や燃え尽き症候群が著しく減少したという予備的な調査結果が得られた。そこから、他の病院からも依頼が来るようになったとネーダー博士は述べている。

超越瞑想の実践とは、活発な心を落ち着かせて、より静かな思考のレベルを体験し、ついには純粋意識という意識の最も静かで穏やかなレベルを体験するというものだ。

「超越瞑想は最もシンプルな瞑想法です。椅子に座って目を閉じて、心の動きに自然に身を任せるだけでいいのです。努力はほとんど必要なく、1日15~20分程度でできます。」とネーダー博士は説明していた。

「学ぶための条件は全くありません。瞑想は自分には向いていないと言っている人ほど、その恩恵を受ける可能性があります。」

「1分も心を落ち着かせることができず、常に心が焦っているという人ほど、絶対に瞑想が向いています。」と彼は話している。

病院に瞑想ルームを新設

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ミリアム病院では現在、常時5~6部屋が従業員の瞑想ルームになっているとコリンズ医師は話していた。スタッフの間でもこの瞑想法が話題になっていて、セルフケアに注意を払うという新しい文化が生まれているという。

各病院では、コロナ患者と接することの多い看護師が最初にトレーニングを受け、その後、他のスタッフにも瞑想を学ぶ機会が提供されている。

「確実によく眠れるようになりましたし、物事に積極的に関われるようになりました」とコリンズ医師は述べている。「仕事と家庭の両方でやるべきことをこなせるようになりました。ストレスをうまく扱うことができるようになったことで、心の状態はずっと良くなっています。それは最初の2~3回の瞑想で、すぐに気づいたことです。」

瞑想は医療従事者が直面している様々な問題を解決する万能薬でないことはコリンズ医師も承知しているが、負担を減らす方法として広く勧めている。

「信じられない、馬鹿げたことに思えるかもしれませんが、ただ瞑想の時間を作るだけでいいんです。本当に簡単なことです。」

ソース:This program teaches burned-out New England health care workers how to meditate