全社員が仕事に専念し、創造的で、生産的で、ストレスがたまっていない……そんな職場があるとしたら、どんな職場だろうか?
医師のノーマン・ローゼンタール氏は、ハフィントン・ポストの記事の中で、こうした活気に満ちた幸福な職場環境を実現する方法について考察している。彼は、著名な精神科医、研究者、ベストセラー作家であり、米国国立衛生研究所に20年間、勤務する間に、世界で初めて季節性情動障害(SAD)の症状を明らかにし、その治療法として光療法を開発した先駆者だ。これまでに、200を超える学術論文と8冊の一般書を執筆し、アメリカでトップの精神科医の一人に名前があげられている。以下は、その彼が投稿したハフィントン・ポストの記事からの引用である。
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最近、空港の本屋に並んでいた書籍を見ていたとき、そのタイトルの多くが企業の業績向上に関係したものだったことに驚いた。より良い指導者、より良い経営者、より良い革新者になる方法、そのための10のヒント、8つの戦略、7つの改善法といったタイトルだ。こうした本の詳細には立ち入らないが、──それらを読むには何日もかかるだろうし、出発ゲートに向かうまでに、たった15分しかなかったのだ。──そのとき私の心に浮かんだことは、こうした膨大なアドバイスの渦の中で、最も重要な一つ手法が見落とされている、という思いだった。私がここで言おうとしているのは、もちろん瞑想のことだ。
創造性や業績を高めるために、どんなアドバイスやテクニックを取り入れるとしても、それらすべては、脳と呼ばれる中央処理装置を通過する必要がある。来る日も来る日も、最高の業績を上げ、多くの人々に影響の及ぶ重大な決断をし、創造的で革新的な戦略を立てなければならない人々は、好んで、ある神話に賛同している。それは、私たちの脳は常に最高の状態で機能することができるという神話だ。しかし、それは本当ではない。
私たちの体は、アドレナリンで生きるようにはできていない
心理学者は、一日を通して、心の明瞭さや機敏さは変化しやすいことを立証している。個人的な体験からも、それは明らかだ。冴えた頭を維持するために、私たちはエスプレッソのコーヒーやダイエットソーダを飲んだり、一日の終わりには神経系を静めるために、ビールやカクテルを飲んだりする。心の状態を整えるために、こうした外来性の化学物質を使用するだけでなく、ストレスがたまってくると、私たちの体は、副腎髄質ホルモンやドーパミンといった内因性の脳内神経伝達物質を放出して、鋭敏さを維持しようとする。
しかし、こうした化学的なシステムは、一時的な危機や困難に対処するために、進化の過程において発達してきたものであり、それを継続的な生活習慣にすべきではない。私たちの体は、「アドレナリン(興奮剤)で生きる」ようにはできていないのだ。実際、長期の病気休暇の最も大きな要因は、仕事のストレスであり、それは「21世紀の黒死病」と呼ばれている。
創造性と最高の業績
ストレスが体の健康に及ぼす有害な影響はさておき、ここではストレスが創造性や革新性に与える影響について考えてみよう。厳しい納期に間に合わせるために、必死になって働かなければならないというのは、最高水準の業績を上げるための公式とは言えないだろう。最高の業績を上げるためには、最高の体験が必要となる。そうした最高の体験は、超越瞑想を実践している人々の間では、ごく普通に起こることだ。
長年の瞑想者であり、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターの創業者であるレイ・ダリオは、次のように述べている。「瞑想は、創造性を引き出す助けとなります。創造的な考えは、意識して一生懸命がんばることで得られるものではありません。そうではなく、深くリラックスしているときに、やってくるのです。脳を通過するそうした考えを、つかまえるのです。」
創造的な洞察は、普段とは違う意識状態で起こることは、伝説的な逸話によく出てくる話だ。アルキメデスの場合には、お風呂に入ってリラックスしているときに、王様の冠が純金かどうかを調べる方法を発見したのだ。または、ケクレの場合は、ヘビが自分のしっぽを噛んでいる夢をみて、ベンゼン分子の中の炭素原子はリングの形に配列されているに違いないという洞察を得た。長年瞑想している人々も、創造的な洞察は超越の体験中に起こると一様に報告している。
しかし、創造性や業績を高めるという超越瞑想の最も優れた効果は、瞑想中に時々起こる瞬間的なひらめきからやってくるものではない。むしろ、1日2回規則的に瞑想することで、意識が変化して、超越の体験が日常生活においても維持されることからやってくるのだ。ストレスのたまった心に落ち着きが増してゆき、考えや体の反応がゆったりとしたものになる。そのとき、物事をより効率的に処理し、革新的に考え、行動できるようになるのだ。それが、予想外の解決策をもたらすことになる。
脳波の同調と忍者の精神状態
そのような意識の変化と共に、電気的な脳波パターンは変化し、『脳の同調』が増してゆく。脳の同調とは、脳の異なる部位で同じ周波数の脳波が現れることだ。あるノルウェーのビジネスマンの研究では、脳の同調の増大が、組織におけるより大きな責任や達成と関係していることが確認されている。再び、ダリオの言葉を引用すると、超越瞑想は、頭の冴えた状態や冷静さを保つ助けになるという。その結果、困難がやってきたときにも、忍者のように冷静に、注意深く、それに対処できるのだ。自分の中心に留まっていれば、感情に支配されることもなくなる。
私は長年にわたって瞑想を行い、超越瞑想の効果を示す数多くの研究論文を調査し、それを題材とした本『トランセンデンス(和名:超越瞑想──癒やしと変容)』を書いてきたが、今なお、この古代から伝わるテクニックの効果には驚くばかりだ。最先端の医薬品でも対処できない多くのことを、超越瞑想は成し遂げるからだ。ときどき私はこう考えることがある。もし超越瞑想を調合剤のようにカプセルに入れて市販することができたら、何十億ドルものヒット商品になるに違いないと。