以下は、米国ウォール・ストレート・ジャーナルに掲載された “Doctor’s Orders: 20 Minutes Of Meditation Twice a Day”(医師が処方する:1日2回、20分間の瞑想・4月16日)」の記事の全文です。
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ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターでは、医師が思いもよらない処方箋を出すことがある。それは瞑想である。
企業の医療費負担がこれまで以上に高まっている昨今、雇用主は大金を費やし、時には罰金を課して、従業員が自らの責任で健康管理をするように手段を講じている。
「最初は1日2回5分間の瞑想から始めて、徐々に時間を増やしていくように勧めています」と、プライマリケア医であり、チェン&ツイ統合医療センターの副医長を務めるアディティ・ネルーカー医師は言う。ハーバード大学メディカルスクールの提携病院である同センターでは代替医療を提供している。「基本的には薬を処方するやり方と同じです。最初からすぐに高用量の処方はしません」。ネルーカー医師は、不眠症や過敏性腸症候群などの患者に、最終的には約20分間の瞑想を1日2回行うように勧めている。
全国の病院やクリニックで、瞑想を含めた統合医学の治療計画がだんだんと目立つようになってきた。最近の研究では、瞑想には血圧を下げたり、慢性病患者の痛みや抑うつを軽減する効果があることがわかった。昨年発表された研究では、アフリカ系米国人の心臓病患者のグループが、瞑想によって心臓発作や脳卒中のリスクを顕著に低下させた。
カリフォルニア州フレモント在住のマーサ・オーボイルさんは、慢性痛への対処に瞑想が役に立ったと話す。
ベス・イスラエル・ディーコネスでは、瞑想やその他の心身療法がプライマリケア環境に徐々に組み入れられている。そのような治療計画は過去6カ月でかなり利用されるようになっており、いずれはグループ瞑想のクラスを設けることになるかもしれない、とネルーカー医師は語る。
瞑想を従来の薬物治療の代替にするのではなく、補助的処置として利用すべきだ、というのが医療専門家たちの意見である。「ごくゆっくりと意識的に呼吸をすれば血圧が一時的に下げる」のは確かだが、そのような技法を高血圧やその他の重篤な症状を管理する薬物療法の代替として用いるべきではない、と語るのは米国立衛生研究所の一部門である国立補完代替医療センターのジョセフィン・ブリッグス所長。一般的に言って、瞑想が症状管理に役立つ場合はあるが、病気の治療や処置に有効であるとはいえない、と彼女は語った。
ブリッグス医師によれば、政府機関から資金提供を受けて、瞑想や呼吸法が閉経期の熱感(ほてり、のぼせ)など多数の症状に及ぼす影響を調査する多くの研究が行われている。瞑想に有益な効果があることがわかれば、有害な副作用を伴うかもしれないホルモン療法を回避する選択肢が女性たちに与えられるだろう、と彼女は語った。
カリフォルニア州フレモント在住のマーサ・オーボイルさん(51)は、2年前に心臓発作に襲われて以来、腕、胸部、その他の部分の慢性痛に悩まされてきた。
「心臓病専門医から瞑想を習いにいくように言われたとき、私はバカにされているのかと思いました」とオーボイルさん。
オーボイルさんは2011年にスタンフォード大学付属病院で瞑想のクラスに参加した。その8週間のクラスでは、週に1回、2〜3時間のセッションを受けることになっていた。「クラスに参加してすぐにその効果に気づきました」と彼女は言う。現在、オーボイルさんは毎日20分〜45分瞑想をしている。「痛みはなくなっていませんが、瞑想は私が痛みに対処するのを助けてくれます。」
医師が勧めたり、病院の治療計画で利用されたりする瞑想法のうちで最も一般的なのは、マインドフルネス・ストレス低減法という種類の瞑想で、マサチューセッツ大学メディカルスクールで考案された。ネルーカー医師は、瞑想を学ぶクラスに患者を行かせることはしないと言う。そのかわり彼女やベス・イスラエル・ディーコネスの他の医師が病院内でその瞑想を実際にやって見せている。「実は、この瞑想は、座って楽な姿勢を保って眼を閉じ、自分の呼吸に注意を向けるだけなのです。」と彼女は説明した。
デューク大学メディカルスクールのムラリ・ドライスワミ精神科教授によると、瞑想がどのように身体に働きかけるのか、明確にはわかっていないという。ある種類の瞑想法は、副交感神経系を活性化することで身体の弛緩反応を促進し、血液供給を改善し、心拍数と呼吸数をゆるやかにし、消化活性を高めることがわかっている、と彼は語る。また副交感神経系を活性化することで、コルチゾールなどのストレスホルモンの放出のペースがスローダウンする。
うつ病、パニック障害、不安障害、慢性ストレスに悩む人々のために、あるいは、脳機能や心臓、血管の健康など一般的な健康維持を望む人々のために瞑想を勧めている、とドライスワミ教授は語る。
ドライスワミ教授によると、瞑想を調査する研究は何千件も発表されており、そのうち約500件は瞑想の各種疾患に対する効果を調べる臨床試験であったが、長期的な研究は40件ほどしかない。効果が最大限になる最適な瞑想時間があるかどうかはわかっていない。また、瞑想を実践すれば寿命が延びたり特定の慢性病を予防できる、という確証は得られていない。
いくつかの短期的な研究では、瞑想により注意力や記憶力などの認知機能が改善することが示された、とドライスワミ教授は語った。科学者たちは、瞑想によって特定の脳回路の機能的能力が改善される可能性、および脳中枢の一部(特にアルツハイマー病のような疾患で損傷しやすい部分)の加齢に伴う萎縮を緩和できる可能性があることを画像処理を用いて明らかにした。
米国心臓協会が発行する雑誌『循環:心血管の質と成果』に昨年掲載された研究では、心臓病の症状をもつアフリカ系米国人の被験者のうち、超越瞑想を規則的に実践した者は、健康教育のクラスに参加した者と比較して、心臓発作や脳卒中を起こしたり、死亡する可能性が48パーセント低いという結果が示された。これらの発生件数は瞑想群では20件であったのに対して対照群では32件であった。この研究は5年以上継続され、およそ200人の患者が被験者として参加した。
最近行われた研究では、瞑想はテロメア(染色体の末端を覆って保護している部分。加齢に伴って短くなる)の長さに影響を与える分子変化を引き起こす可能性があることがわかった。この研究は、認知症患者の家族介護者40人を対象に行われた。被験者の半分は瞑想を毎日短時間行い、残りの半分はリラックスする音楽を1日12分間聴いた。8週間の研究の結果、瞑想したグループはテロメア活性(テロメアの長さを調節する酵素)が43%改善したのに対し、音楽を聴いたグループは3.7%の改善であった。また瞑想群の被験者は、対照群と比較して、精神機能と認知機能が改善し、抑うつのレベルが低下した。この予備的研究は6月に『国際老年精神医学誌』に発表された。
政府が資金援助した研究でも、瞑想が食事療法やうつ病に及ぼす影響が調査されている。