アイルランドのウォーターフォードに住むミュージシャン、ジョン・コーコラン氏は、彼の30数年にわたる人生の間に幾多の困難──家庭崩壊、パニック発作、鬱病、不眠症──に何度も立ちすくんでいた。そうしたある日、この状況が超越瞑想を学ぶことで一変する。
以下は、ニュースサイト「IRISHTIMES.COM」に掲載された彼の体験を綴った手記の全文である。
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子供の頃、私には二つの生活があった。家庭では、ケンカばかりしている両親の一人息子として惨めな生活を送っていたが、家の外では、幸せな子供時代を過ごした。自転車でサイクリングしたり、ゴーカートを作ったり……私の育った田舎町の夏を楽しんでいだ。
12才の頃から、私の人生に暗闇がやってきた。冬の時期は特にそうだった。両親との生活は、ますます悲惨になっていき、骨の隅々で、消化器系の隅々で、それを感じていた。外に出かけていくことにも興味がなくなった。学校も嫌いになったが、音楽の成績はよく、ピアノが得意だった。
学生の頃から、いろいろなロックバンドで演奏するようになり、卒業後はプロのミュージシャンになった。そして、アイルランドやヨーロッパ中を、様々なバンドと共にツアーするようになった。
しかし、すべてはあまりよい状況ではなかった。中学の頃から、パニック発作を起こすようになり、不眠症に苦しむようになった。子供の頃から宗教や健康に興味があり、父がよく古本を買ってくれたので、そうした本を読みあさっていた。
喪失感を感じる日々
両親は、私が20才のときに別れた。それはとても辛い体験で、20代の頃はいつも喪失感を感じていた。体重が増えて太りぎみになり、最初は過敏性腸症候群と診断されたが、その後、食物不耐性であることがわかった。その病気のために、体の調子はいつも優れなかった。
そして、26才の頃、何とかして、こうした状況から抜け出そうと考え始めた。
医者から、ストレス解消のテクニックを学ぶようにと勧められ、筋肉をリラックスさせる運動を始めた。それはいくらか助けとなった。その頃、ヨガも始めたが、それは演奏前に感じていた強いストレスを取り除く助けとなった。またキックボクシングも始めて、今ではキックボクシングを教える資格ももっている。
20代と30代初めまで、私はロックンロールの日々を送っていた。月曜から木曜までは、ガールフレンドや小さな子供達と一緒に家で過ごし、金曜から日曜までは地方をまわっていた。2007年まで続いた好景気の時期は収入もよかったが、ガールフレンドとの関係は次第に悪化していった。演奏ツアーは、その時期に家で感じていた苦痛の解毒剤だった。
悲惨な状況の繰り返し
私は、子供ができたら、決して自分と同じ辛い思いはさせまいと誓っていた。それにもかかわらず、同じ間違いを繰り返していた。
家族の中に否定的な状況を生み出さないようにと、いくら意識して気をつけていても、それは起こってしまうものだ。なぜなら、そうした状況は、自分が意識していないレベルで起こるものだからだ。
32才のときに、私は壁にぶちあたった。ガールフレンドに「これ以上、君と一緒に暮らすことはできない」と告げたが、そのとき彼女は子供を身ごもっていることを明かした。それは本当に、イーストエンド(人気の連続ドラマ)のストーリーのようだった。子供が生まれるまで彼女と一緒に暮らしていたが、私の心は彼女からすっかり離れてしまっていた。
子供が生まれて、私は家を出た。しかし、家庭を崩壊させてしまったことで、精神的にますます落ち込んでいった。新しいガールフレンドと出会っても、最初は一緒に暮らす気にはなれず、初めて一人暮らしをすることに決めた。
私の人生は完全に崩壊してしまったと感じた。朝起きることができず、理路整然と考えることもできなくなった。私はまだ演奏を続けていたが、ステージにたつ前に、30分くらい泣いていた。自分のことをうまく扱うことができず、いくらか安らぎを感じるのは、眠っているときだけだった。
超越瞑想
私は何年もの間、超越瞑想を学ぶことを考えていたが、それを行う経済的な余裕がなかった。しかし最後に残された選択肢として、私は消費者ローンに申し込み、TM(超越瞑想)を学ぶことを決意した。一度、費用を支払えば、4日間にわたって(各1時間30分ずつ)、教師からマンツーマンの指導を受け、最初の1年間は3〜4週間ごとに、体験のチェッキングに参加することができる。
最初のミーティングで、私は1時間くらい泣き続けた。しかし、その後で瞑想を学んだら、急に笑いがこみ上げてきて、私は笑い始めた。私はこのためにお金を払ったのだろうかと不思議に思ったほどだ。
教師は「至福意識がやってきたんですね」と言っていたが、その後も3時間くらい、クスクス笑い続けた。それは、私の体にたまっていた膨大なストレスが溶け始めた印だった。そして、その2〜3日後に、頭の中が空白になるという素晴らしい体験があった。私はこの感覚を失うことを恐れ、再びパニック発作が起こるのではないかと心配したが、それは起こらなかった。その代わりに、深い安らぎの感覚があることに気づいた。
そのときから、私は毎日、朝20分、夜20分、TMを行うようになった。周りの人から、TMは宗教ではないかとよく聞かれるが、TMは基本的に、一つ一つ順を追って行う心のテクニックであり、一度やり方を学べば、後は自分一人で実習することができる。それは、私達にできる最も費用対効果の高い健康法だと思う。
TMを学んで3ヵ月後、私の人生に初めて、平和なときが訪れたと感じた。前のガールフレンドに感じていた強い憎しみや嫌悪感は消えてなくなり、彼女への愛が増してきた。それを強く感じたので、私は、前のガールフレンドと、現在のガールフレンド(今では子供が一人いる)の両方に超越瞑想を勧めた。驚いたことに、TMを学んだら、二人は仲の良い友達同士になったのだ。
私は長い間、冬が嫌いだった。クリスマスさえ嫌っていて、冬になるとやってくる憂鬱感に耐えきれない思いだった。しかし、TMを学んだ最初の冬は、そうした憂鬱感が起こらなかった。
私は初めてクリスマスを楽み、クリスマスの気分を味わった。子供達を学校に連れて行くときに、自分がジングルベルの歌を歌っていることに気づいた。それまでは、クリスマスに関係したすべてのことが、私を憂鬱な気分にさせていたが、今年の冬は、夏と同じように幸せでいることができた。TMは私の人生に、内なる太陽の光を取り戻してくれた。すべてがうまくいっているわけではないが、私達全員が一つの家族のようだと感じるようになった。
だからこそ、人間関係に問題のある人全員に、私はTMをお勧めしたい。相手との関係を壊してしまう前に、ぜひTMを学んでもらいたいと思う。
私は今でもミュージシャンの仕事をしながら、 コメディアンをしたり、キックボクシングを教えたりしている。困難な状況に変わりはないが、変わったのは、そうした状況に対処できる能力が身についたことだ。
参照記事・IRISHTIMES.COM