毎年恒例になったデヴィッド・リンチ財団主催の慈善コンサートがニューヨークで行われた。ケイティ・ペリーをはじめ、著名なアーチストが集まり、人生をより楽しむために超越瞑想を試して欲しいと聴衆に呼びかけた。このイベントの模様をmotherboard.vice.comが伝えている。以下はその記事の抄訳。
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11月4日の夜、ニューヨークのカーネギーホールでは、ジェリー・サインフェルド、ケイティ・ペリー、そしてスティングの出演準備が整っていた。聴衆のほとんどの女性は有名デザイナーのドレスで着飾り、男性は自慢げに高級なスーツに身を包んでいる。
そうした彼ら全員が静かに座って目を閉じた。その夜は、みんなで瞑想してからイベントを始めることになっていたからだ。このデヴィッド・リンチ財団が主催する慈善コンサート「変化は内側から始まる」には、多くのスターが出演した。その収益金は、問題を抱えるニューヨーク市民に超越瞑想を教えるために使われる予定だ。
ジェリー・サインフェルド
イベントは、ジェリー・サインフェルドの10分間のお笑いから始まった。「それが人生だから、しかたない」という言葉は好きじゃないと彼は言う。「そんなことを言っていたら、人生は意味のないものになってしまう。それよりも、顔に息を吹きつけられる方がましさ」。そんな彼も、自分の人生のなかでTM(超越瞑想)が果たしてきた役割について語り始めると、口調がだんだん真面目になっていく。TMとは、マントラを用いる瞑想法である。
「TMを世界に広めるためなら私はどんなことでもしますよ」。彼は聴衆に向かって言う。「なぜなら、TMは最も素晴らしい人生のツール、仕事のツールだと思っているからです。瞑想することで、あらゆる状況が意味のあるものになるからです」。
ニュースキャスターのジョージ・ステファノプロスは、その夜の司会者であり、もちろん彼もTM実践者だ。ビデオ出演したハワード・スターン、ヒット曲を歌ったスティング、世界で最も売れているポップスターの一人ケイティ・ペリーも、TMを行っている。巨大なリボンのついたドレスに身を包んだ彼女が、ピンクのマイクで「ワイド・アウェイ」を歌う前に、短いビデオが流れた。そのなかでケイティは、自分の創造的な人生にとって、瞑想がいかに役立つものであるかを語っていた。
ケイティ・ペリー
「私は時々、曲作りの前に瞑想したり、ステージに立つ前に瞑想しています。」とケイティは言う。「ソーシャルメディアに疲れたり、頭のなかがごちゃごちゃになったときにも瞑想しています。瞑想すると、実際に身体に何かが起こるからです。それは身体を癒やすような、科学的な変化です。頭のなかに蜘蛛の巣が張っているように感じるときに瞑想すると、脳の神経系の経路がぱっと開いて、心が研ぎ澄まされるように感じます。だから私は、皆さんにも瞑想を試してもらいたいのです。」
サインフェルドやケイティ・ペリーといった第一級のスターが自らすすんで、自分の時間や才能を費やして、リンチ財団のために遊説してまわるという事実は、近年起こっているTM運動の復活を示している。そのきっかけを作ったのが、ハリウッドで最も影響力のある前衛的な映画監督だった。
「私たちは今、35カ国で活動しています」とデヴィッド・リンチ財団の理事長ボブ・ロス氏は、最近私に語った。「南アメリカや中東にもプログラムを提供しています。アフリカでは、コンゴ、ウガンダ、ケニア、ナイジェリア、南アフリカなどです。アジアではカンボジアやベトナムで活動しています。それらはすべて口コミで広がっていて、カンボジアの新聞に広告を載せるとか、そういったことはしていません。人々は周りの人たちから、TMの話を聞いているのです」。近年、TMの人気は「臨界点」を超え、世界中でTMを学びたいという人が急増している。そのため、資格を持ったTM教師が足りていないのが現状だとロス氏は述べた。
デヴィッド・リンチ財団の理事長ボブ・ロス
しかし、世界中で活動を行っているにも関わらず、彼らが次にTMを広めたいと思っているのは、もっと身近な場所だった。
「私たちは、ニューヨーク市に多くの注意を向けています」とロス氏は言う。「ニューヨークをTM導入のモデル都市にしたいのです。もし超越瞑想が、学校教育、政府機関、企業、ホームレスの施設に導入されたら、その都市がどう変わるのか具体的に示したいのです。そのために、学生にTMを教えるだけではなく、両親や祖父母にも教えたり、帰還兵だけではなく、その妻、夫、子供たちにも教えています。このようにして、コミュニティ全体に超越瞑想を広げていきたいのです。」
この10年間でアメリカ全土にTMを広げることに成功してきたデヴィッド・リンチ財団は、次にこうしたミッションに乗り出している。これまで、リンチ財団は全米の学校にTMを導入し、国防省は最近、PTSDの治療法として超越瞑想の有効性を調べる研究に2千4百万ドルもの資金を費やした。さらに超越瞑想は、重役たちの仕事の効率を高めるツールとしても活用されているという。
TMを支持する人たちは、TMが血圧を下げ、ストレスを減らし、創造性を上げると主張し、その証拠として多数の研究を上げている。しかし、TMの歴史は長く、その道のりは曲がりくねっているため、今日の復活の理由は、簡単には説明できないだろう。
1950年代、マヘーシュ・プラサド・ヴァルマは、精神的な探求のためにヒマラヤの洞穴にこもった。
マヘーシュは、アラハバード大学で数学と物理学を学んだが、卒業後はグル・デヴと呼ばれる有名な聖者の下で悟りを求める。グル・デヴは、伝統的なアドヴァイタ・ヒンドゥー教の精神的指導者だった。その頃に、彼はTMの実習法の基礎になる理論を開発したといわれている。マヘーシュは、「統一場」と呼ばれる絶対的な実在にすべての人が到達できると考えていた。
TMを実践する人々は、1日2回、20分間の瞑想を行う。朝一回、夕方一回だ。彼らは資格のあるTM教師から学んだマントラを静かに繰り返すことで、その場へと至る。この統一場に触れることによって、瞑想者は穏やかさや平安を感じるという。
1958年に、TMを広めるために世界ツアーに出かけたマヘーシュは、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーという名前で知られるようになり、「マハリシ」とか「笑うグル」と呼ばれるようになる。彼は、充分な人数(正確には世界人口の1%の平方根)の人々がTMとその上級プログラムをグループで実践すれば、肯定的なエネルギーが生み出され、世界平和を実現できると考えた。そのことを話して、賛同する人々を増やし、より平和な世界を生み出すための活動を、彼は「精神復活運動」と名付ける。最初から彼は、この瞑想法をアメリカで広めようと考えていたようだ。「アメリカ人は、新しいものをすぐに取り入れる習慣があるから」と語っていたという。
TMは、アメリカやヨーロッパの上流階級に好意的に受け入れられた。特に、西側社会で急激に人気が高まったのは、ビートルズがTMを支持したことがきっかけだった。1967年に、マハリシは、ラビ・シャンカールの紹介で初めてビートルズと出会う。1968年に、彼らはインドに行き、マハリシのアシュラムに滞在して、TMの指導を受けた。ビートルズがマハリシのもとで過ごしていたことは、西側諸国のメディアに大きく報道され、60年代後半には、マハリシの写真がアメリカの大衆誌の表紙を飾ることになる。こうした報道をきっかけに、セレブがTMを推薦し始めた。
セレブは、TM運動をかっこいいものにした。彼らはよく、自分たちの創作力や富は、TMによって得られたものだと語っている。1968年に、ビーチボーイズのマイク・ラブは、「TMを行うことで、レコード売り上げが昨年の250万枚から今年は500万枚に上がった」とシカゴ・トリビューン紙に話している。
現在、TMの最も熱心な実践者は、アイオワ州フェアフィールドにマハリシ・ヴェーディックシティを設立し、独自の通貨システム、セキュリティシステム、市議会を保持している。また、彼らが運営するマハリシ経営大学は、1971年にマハリシが設立した大学であり、そこでTMの有効性に関する数多くの研究が行われてきた。このように一つの街全体を作り上げたものの、もしデヴィット・リンチがいなければ、超越瞑想は、少数の熱心な人々が行っている1960年代の反体制文化の遺物となっていただろう。
ツイン・ピークス、ブルーベルベット、マルホランド・ドライブを制作したデヴィッド・リンチは、70年代から1日2回の瞑想を続けていて、それが創造性を引き出す秘訣であると信じている。
著書「大きな魚をつかまえよう」のなかで、彼は「純粋意識を体験することが大変重要だ」と語り、読者に瞑想を勧めている。「瞑想は、私にとって大きな助けになりました。どの映画制作者にとっても役に立つと思います。だからこそ、自分自身の内側に飛び込んで、至福意識を活性化してほしいのです。幸福と直観力を成長させて、行動する喜びを体験してください。そうすれば、とても穏やかな形で、あなたは輝き始めるでしょう。友達はあなたといるだけで、とても幸せに感じます。誰もがあなたの隣に座りたがり、あなたにお金をもたらすでしょう!」
デヴィッド・リンチ
リンチは、高い料金を払うことができるロサンジェルスのアーティストたちだけでなく、あらゆる職業、あらゆる階級の人々がTMを学べるようにすべきだと考えた(以前は、資格のあるTM教師からTMを習うのに2500ドルほどかかったが、現在の料金は1000ドル以下に下がっている)。そうした熱意と、TMによって世界に変化を生み出したいという思いから、2005年に、意識に基づく教育と世界平和のためのデヴィッド・リンチ財団を設立した。それ以来、財団の活動は急速に広がり、それと共に超越瞑想への関心が高まっている。
デヴィッド・リンチ財団は、TMの宗教的ルーツからは距離をおき、TMの背後にある宇宙論ではなく、そのテクニックを広めることに力を入れている。代表者たちは、ヨーガのフライングについてもあまり語らないし、TMを行う目的は精神的な啓発であるといったことも話さない。
現在、リンチ財団の支援者は、TMによって血圧が下がるとか、ストレスが減少すると説明している。最近行われたリンチ財団の慈善コンサートでは、出演者の多くが、この運動は宗教的なものではないと宣言していた。
「これは宗教ではありません。カルトではありません。みなさんのためになるものです。」その慈善コンサートで、「アフリカの最高の歌姫」と紹介されたアンジェリク・キジョーは、そう語った。
このコンサートで集まった100万ドル以上の寄付は、ニューヨーク全体にTMの実習を広めるために使われる予定だ。ニューヨークを瞑想の街にするという財団のプロジェクトを聞いて、私はボブ・ロス氏にこう尋ねた。世界人口の1%の平方根が超越瞑想を実習すれば、世界に平和がもたらされるという精神復活運動の考えを、あなたはまだ信じているかと。彼は希望に満ちていた。
「私は、絶対にそれを試してみるべきだと思っています」と彼は答えた。「なぜなら、暴力に油を注いでいるのは民族的、宗教的、政治的な緊張やストレスであり、そうしたストレスや緊張を、よりひどい暴力、戦争、経済封鎖によって解消することはできないからです。それは明らかです。ですから、私たちは十分な人数で瞑想し、その理論を試してみたいのです。」
最後に、新しいツイン・ピークスの撮影のためにコンサートに参加できなかったデヴィッド・リンチが、カーネギーホールに現れた。その夜を締めくくる大変リンチらしいビデオメッセージを通して。
「超越瞑想は、人生をよい方向に変換してくれます。あなたが人間であれば、それは効果を発揮します。」と彼は言った。「それは内側から起こる変化です。超越瞑想という、この素晴らしい祝福を人々にもたらすのを手伝ってください。皆さんの協力に感謝します。ぜひ今宵を楽しんでください。」
https://www.youtube.com/watch?v=9LyyHNsW0eE
Source:
David Lynch and the Second Coming of Transcendental Meditation (BY CORRINA LAUGHLIN)