瞑想がストレスに及ぼす影響についての新しい研究が発表されました。この研究では、38年間にわたって1日2回の超越瞑想(TM)を実践している人々の血液を調べたところ、瞑想をしている人々の遺伝子の活性が健康な人々と比べて異なることがわかりました。
具体的には、瞑想をしているグループでは、炎症を抑える遺伝子が増加し、免疫系の働きが改善されていました。また、エネルギー効率に関連する遺伝子も変化し、健康的な状態に近づいていました。
これらの発見は、超越瞑想が不安やストレス関連の障害、心臓病などの症状を軽減する可能性があることを示唆しています。これにより、瞑想が健康に良い影響を及ぼす分子レベルのメカニズムが明らかになりました。以下はその論文の概要です。
写真:UnsplashのSangharsh Lohakareが撮影した写真
長期瞑想実践のトランスクリプトミクス:
健康に有害なストレス効果の予防/逆転のエビデンス
図1.差次的に発現する遺伝子のヒートマップと階層的クラスタリン
【概要】
背景と目的:ストレスは適応メカニズムを過負荷にし、エピジェネティックにつながる可能性があり、健康に有害な影響を及ぼしている。これらの影響の逆転に関する研究は、まだ始まったばかりだ。初期の結果では、いくつかの瞑想法には、繰り返し実践することで成長する健康上の利点があることが示唆された。この研究では、38年間の1日2回の超越瞑想(TM)の実践によるのトランスクリプトミクス効果の可能性に焦点を当てた。
対象と手法:先ず、イルミナ®BeadChipマイクロアレイテクノロジーを使用して、健康な実習者と厳密に一致するコントロール群(n = 12、65歳)との末梢血単核細胞(PBMC)におけるグローバルな遺伝子発現の違いを求めた。次に、これらのマイクロアレイの結果を定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって、遺伝子のサブセットを用いて検証した。超越瞑想を実践しているグループと対象群(n = 45、63歳)でqPCRを使用して検証した。バイオインフォマティクス調査では、Ingenuity®Pathway Analysis(IPA®)、DAVID、Genomatix、およびRパッケージを採用した。
結果:マイクロアレイでの差次的発現の厳密な基準を満たすことが分かった200個の遺伝子と遺伝子座実験では、2つの群を区別する表現の対照的なパターンを示した。差次的免疫機能とエネルギー効率に関連する発現が最も明白であった。 TMグループでは、対象群と比較して、炎症に関連する49の遺伝子すべてがダウンレギュレーションされていたが、防御反応の抗ウイルスおよび抗体成分に関連する遺伝子はアップレギュレートされた。最大の発現差は、赤血球機能に関連する6つの遺伝子によって示された。対象群のエネルギー効率が低い状態を反映しているように見えた。これらの遺伝子発現の違いは、よく一致するマイクロアレイグループと、より大きく、あまり一致しないグループの両方において、qPCRによる測定での発現で得られた。
結論:以上の発見は、瞑想の初期のランダム化試験の結果に基づく予測と一致しており、不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、心血管疾患(CVD)、およびその他の慢性障害の軽減の根底にあるストレス関連の分子メカニズムの証拠を提供する可能性がある。
用語
- トランスクリプトミクス(transcriptomics)とは、生体内細胞の伝令RNA(mRNA)の総合的な研究分野を意味する。特に、細胞内伝令RNAの量の解析で形質発現の遺伝子を選出し、その発現状態を網羅的・定量的に調べることを目的とする。
- ダウンレギュレーションとは、継続的または過度な刺激により、神経伝達物質やホルモンなどへの応答能が低下すること。
- アップギュレ—ションとは、神経伝達物質やホルモンなどへの応答能が増大すること。
[Reference]:Wenuganen S, Walton KG, Katta S, Dalgard CL, Sukumar G, Starr J, Travis FT, Wallace RK, Morehead P, Lonsdorf NK, Srivastava M, Fagan J. Transcriptomics of Long-Term Meditation Practice: Evidence for Prevention or Reversal of Stress Effects Harmful to Health. Medicina (Kaunas). 2021 Mar 1;57(3):218. doi: 10.3390/medicina57030218. PMID: 33804348; PMCID: PMC8001870.
監修:土田賢省(東洋大学教授)