多くの退役軍人が長年に渡ってPTSD(トラウマ)による後遺症で苦しんでいる。ニューヨーク大学ランゴン医療センター精神科の名誉会長ロバート・カンクロ教授は、PTSDの治療に医薬品だけでなく超越瞑想を適用するよう政府に呼びかけている。
以下は、PTSDで苦しむ退役軍人を救うための会議(デヴィッド・リンチ財団主催)の模様をブルームバーグ・ビジネスウィークが伝えた記事からの引用である。
2010年は、65分ごとに一人、米軍の退役軍人が自殺している。それは、1999年から2010年の間に自殺した退役軍人を追跡調査した結果であり、こうした事実が米国退役軍人省によって発表された。さらに現役の任務についている軍人たちの自殺も増えている。2012年は、その人数が349という最高記録に達し、戦闘による死亡者数を上回った。
これら憂慮すべき統計結果は、2013年2月に起こったクリス・カイル殺人事件(多くの勲章をもつ米海軍の狙撃手が、PTSDの退役軍人によって射殺された事件)と同じくらい悲惨な出来事である。こうした憂慮すべき統計結果への対策として、米国の軍隊は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を予防したり、治療するための新しい方法を探し始めている。その選択肢の一つに瞑想が含まれているのだ。
軍隊が最初に瞑想に興味をもち始めたのは、1985年のことだった。当時、小規模の予備的研究により、超越瞑想がベトナム帰還兵のストレスと不安感の度合いを軽減することが確認された。超越瞑想とは、ビートルズのグルであるマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーが紹介したテクニックである。そのときの研究では、瞑想を始めた退役軍人の70%が、三カ月もたたないうちに退役軍人センターの支援活動を必要としなくなった。
これらの肯定的な結果にもかかわらず、「ここ数年まで、軍当局の興味がより高まることはなかった」とデヴィッド・リンチ財団の理事長ボブ・ロス氏は語り、超越瞑想をPTSDの治療法として推薦している。「軍当局が今、超越瞑想の効果を真剣に調査している理由は、問題が非常に深刻だからです。」
超越瞑想は、三つの主な瞑想法の一つに分類されるが、それぞれの瞑想法は体と脳に異なる影響を及ぼすことがわかっている。
ニューヨークで行われたデヴィッド・リンチ財団のチャリティーイベントで、何人かの退役軍人が、超越瞑想が深刻な精神的苦痛を和らげる助けになったと語った。限りなき自由作戦(2001年9月11日のアメリカ同時多発テロに対してアメリカが宣告した作戦)に参加した退役軍人ルーク・イェンセンは、アフガニスタンで自殺未遂を起こし、それ以降も妻や小さな子供達の前で自分の頭に銃を当てて、何度も自殺を試みた。超越瞑想は、彼を絶望の淵から救い出し、「十数年ぶりに、初めて希望を感じた」と彼は話した。
第二次世界大戦での戦闘機の操縦士ジェリー・イェリンは、瞑想を学ぶ前の30年間、悪夢、行動障害、麻薬常用癖と共に生きてきた。「超越瞑想によって、私は自分の人生を100%取り戻した」とイェリンは語っている。彼は今、退役軍人に超越瞑想を提供する組織オペレーション・ウォーリア・ウェルネスの副議長であり、人生を「150%」生きているといえるだろう。
以下のビデオで、そのときの会議のハイライトを見ることができる。
私立の陸軍大学ノーウィッチ大学で行われた小規模の予備的研究では、超越瞑想を1日2回実習した新入生は、瞑想していない学生よりも、より機敏で、成績が向上したことが確認された。その研究を紹介したドキュメンタリービデオの中で、ある新入生は「超越瞑想をしないと、僕はどの授業でも必ず眠ってしまうんだ」と語る。
昨年、アメリカ国防総省は、PTSDの治療に対する超越瞑想の有効性を調べるために、マハリシ経営大学の研究所とサンディエゴの復員軍人局医療センターに対して240万ドルの研究助成金を提供した。配備健康臨床センターのジョン・ゴールデン大尉によると、軍隊は、マインドフルネス瞑想など他の瞑想法の有効性も調査しているという。例えば、統合的回復瞑想は、PTSDの補助的な治療法として有効であることが確認されている。今までのところ、それらの瞑想法の効果を比較する研究は行われていない。ロス氏は「そうした研究を行うべきだと私は思っています。どちらが勝つかではなく、どの瞑想法が実際に効果があるのかを調べることは非常に有益だからです。」述べている。
米国国立衛生研究所はこれまで超越瞑想の研究に対して、2,500万ドル以上の助成金を提供してきた。それらの研究により、超越瞑想が、不安感・高血圧・心臓発作・脳梗塞の発生率と死亡率を減少させ、薬物依存や鬱傾向を改善することが実証されている。しかし、超越瞑想を学ぶコース費用は安くない。一般の人が超越瞑想を学ぶ費用は一人あたり千ドルであり、軍人が学ぶ場合は一人あたり五百ドルかかる。こうした費用を補うために、デヴィッド・リンチ財団は基金を募っているのだ。
「軍隊は、瞑想の訓練のためにまだお金を払っていません」とニューヨーク大学ランゴン医療センター精神科の名誉会長ロバート・カンクロ教授は語る。「アメリカ国防総省の医療支出の大半は医薬品のために使われています。TM(超越瞑想)に関する研究結果を待つだけでなく、私たちは、瞑想に対する根強い不信感を取り除く必要があります。」とロバート・カンクロ教授は述べた。「瞑想を学ぶことは自分の名誉を汚すことになると考える人々がいますが、精神安定剤をとることは恥ずべきことではありません。」とカンクロ教授は、デヴィッド・リンチ財団の資金集めに集まった人々に語った。