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スポーツは心の競技だ【アスリートと瞑想】

クリケットはイギリス発祥のスポーツ。各国でプロリーグが発足され、インド、オーストラリア、ニュージーランドで人気を誇っており、競技人口はサッカーに次いで世界2位だ。

ニュージーランド代表チームでキャプテンを務めていた元クリケット選手ジョン・ライトは、プレッシャーに打ち勝ち、自分らしいプレーをするために超越瞑想を実践していた。以下はニュージーランドの「Radio New Zealand」に掲載された記事の抄訳である。

◆ ◆ ◆

ジョン・ライトは、1978年から1993年までニュージーランドのクリケット選手としてプレーし、2000年から2005年までインドで監督を務めていた。

今から28年前、彼がニュージーランド代表のクリケットチームのキャプテンだった頃、オーストラリアの新人ジャスティン・ランガーと会話を交わしたことがある。それがきっかけで、駆け出しの打者は大きな変貌をとげることになった。

その出会いがいかに幸運な出来事であったか、その時は誰も知るよしもない。

ランガーは、1993年に22歳​​でオーストラリア代表としてデビューを果たしたが、思うような結果を出すことができなかった。

ある日、ニュージーランドの代表チームと対戦したとき、その日に引退を発表したライトは、試合後、オーストラリアチームの更衣室に入り、ベンチに座って落胆しているランガーにビール瓶を片手に近づいていった。

その当時のことを、ランガーは2020年の初めにポッドキャスト「Lessons Learnt with the Greats」で話していたが、そのとき、ライトから超越瞑想(TMとも言う)を試してみてはどうかと勧められたという。

「ニュージーランドの偉大な先頭打者だったジョン・ライトは、伝説に残るコーチであり、タフな古典的ヒッピーです。私が降板することになった試合の後、彼は私のところにやってきて、片手に日記、もう片方の手にビール瓶を持って、こう言ったんです。『私は君を見てきたが、君は頑張りすぎている。自分にプレッシャーをかけすぎているんだ』と。

そして、彼は私に『何をすべきかわかっているかい? 超越瞑想をやってみるといい』と言ったんです。私は笑い出して『超越?!……それは何だい』と尋ねると、彼は再び『超越瞑想だ』と言いました。私は『そんなこと、考えたこともなかったよ』と言って驚きました。」

その後すぐに、オーストラリア代表チームから外されたランガーは、家のソファーに座りながら「すべてが終わった」と考えていたが、新聞を開くと超越瞑想を学ぶための広告が目に入った。そのとき彼は「もう失うものはない」と思ったという。

多くの成功は瞑想がもたらしてくれた

Photo by Nik Shuliahin on Unsplash

それ以来、ランガーは毎日瞑想を続けている。そして彼は、オーストラリアで最も優秀な打者の一人となったのだ。

ランガーは、オーストラリアのチーム内でスキャンダルが起こった後、2018年に代表チームの監督に就任したが、その際、イメージを一掃するのにふさわしい人物と見なされていた。

瞑想はランガーの人生の中で大きな部分を占めており、彼は自分の成功の多くを瞑想によるものだと信じている。

ライトによると、28年前に二人で交わした会話のことを、ランガーは彼に思い出させることがよくあるという。

「当時、彼は非常に熱心でタフな選手だった」とライトは話していた。

「それで私は言ったのです。『見てごらん。私はTM(超越瞑想)を行ってきて、それが本当によいものだとわかったんだ。それはリラックスする助けになる。』とね。

私はランガーほど熱心な瞑想者ではありませんが、彼と交わした会話のことはよく覚えています。私がインドで監督をしていたとき、彼はオーストラリアでプレーをしていたので、長年にわたってよく連絡を取り合っていました。

彼は素晴らしいやつです。私たちは今でも付き合いがあり、今年はダービーシャーで彼と会いました。彼はオーストラリアの代表チームの監督をしていて、イギリスの私の古巣であるダービシャーにもときどきやってくるのです。」

「うまくなりたい」という強い意欲は、諸刃の剣

Image by Schäferle from Pixabay

1978年に国際試合に参加するようになったライトは、自分自身に対して厳しい練習を課していた。「うまくなりたい」という意欲が強かったが、それは諸刃の剣だった。

「私は自分自身に大きなプレッシャーをかけていました。特にニュージーランド代表としてプレーし始めた頃は、良い成績を残したいという気持ちが強すぎて、試合でバッティングをするときに、力が入りすぎていたのです。」

「20回ほど試合に出た後、思うような結果が得られないことに気づきました。自分には十分な能力があり、やる気もあって、国内試合の成績は非常に良かったのですが、国際試合では緊張して、自分らしいプレーができなかったのです。」

ライトは自分がもっと精神的に落ち着く必要があると感じていた。

ライトの友人である故ボブ・ウィリスは、当時イギリスの代表チームのキャプテンを務めていた。イギリスで最も優れた速球投手の一人だったウィリスは、70年代後半に緊張を抑えるために催眠療法を取り入れていた。

彼はライトに、シドニー在住のアーサー・ジャクソン博士を紹介してくれた。彼はオーストラリアのトップのスポーツ選手を数多く手がけてきた一流のスポーツ心理学者だった。

「オーストラリアに遠征したときには、セッションを受けに行ったり、テープを送ってもらったりしていました。」

また、ライトはたくさんの本を読み、それが瞑想について探求するきっかけになったという。

「私は超越瞑想のテクニックを学びました。一時期は、やったりやらなかったりしましたが、選手人生の後半にニュージーランド代表チームのキャプテンになったときには、再び規則的に実践するようになりました。瞑想が役立つことがわかっていたからです。」

ライトは現役時代、精神的な回復力を強めるために多くの時間を費やしてきた。

「スポーツ選手は精神的にタフでなければならないと言う人がいますが、タフであるというより、心が整っているかどうかが重要です。心が整っていれば、試合に出たときに、もっている力を十分に発揮できるからです。それにも関わらず、私たちは自分にプレッシャーをかけすぎて、心身を痛めつけているのです。

「1978年の自分の成績を見てみたら、最初の20回の試合と比較して、それ以降の60回の試合は、格段に成績が良くなっていました。それは、心を整えてバッティングができたからだと思います。」

彼は時代を先取りしていた

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瞑想を始めた頃、ライトは規則的に瞑想を行っていたが、その当時、心のテクニックについて語る人は誰もいなかった。

「それは、何気なく気楽に話すような話題ではありませんでした。瞑想していると話したら、たぶん少し奇異な目で見られたでしょう。

瞑想は一般的なものではなかったので、自分が瞑想していることをチームのメンバーや周りの人に話そうとは思いませんでした。」

当時は、選手の精神面をサポートするコーチやスタッフはいなかったので、仲間から学んだり、独学で学んだりすることが多かったという。

ライトの心の準備は、グラウンドに立つ前から始まっていた。一日の日課の中に、静かになる時間を作っていたのだ。

「毎日、試合の前、あるいは、特定の時間帯に心を静める時間をとることが、とても役立つことに気づきました。それで瞑想を日課にしたのです。

瞑想やマインドフルネスは、心を静めることで、自分の能力を最大限に発揮できるようにします。自分がコントロールできるのは現在だけなので、未来や過去について考えても意味がありません。クリケットで言えば、コントロールできるのは、このボールだけなのです。

スポーツにおいては、本能的にプレイすることが最も速くて正確です。ですから、集中する能力も重要ですが、それだけでなく、自分自身を自由にして、自分の力を信じることができるかどうかが重要なのです。」

試合で最高のプレイをするための準備の一部が瞑想であるとライトは考えていた。

クリケット選手の中には、あまり考えすぎずに自然体でいられる人もいて、それがうらやましいとライトは語っている。

「自己分析をしたり、意識的に考えれば考えるほど、潜在意識を邪魔することになります。だからこそ練習して、本能的にプレイできるようにするのです。大事な場面で自分を解き放して、自由な状態でいられるかどうかが、非常に重要です。」

心を静める

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これまでライトは、先頭打者として史上最高の速球投手たちと対戦しなければならなかった。時速140キロ以上の球を投げる速球投手が、私たちに向かって投球しようとするとき、頭の中であまり多くのことを考えたくないものだ。

「一瞬のうちにボールと対峙し、その数秒後には次のボールで何が起こるのかを考えなくてはなりません。そのためには、心を切り替える能力がとても重要です。ある選手は技術面がどうであれ、そうした能力に長けていました。彼らは2~3の鍵となる考えで、本来もっている力を引き出して、本能にまかせてプレーします。そうした非常に良いパターンを持っていました。」

ライトは、打者としてクリケットの精神的な側面についてたくさんのことを学んだという。

「打席に立つときに、何が起ころうとも『なるようになる』と思える素晴らしい適性を持っている人達がいます。イアン・ボサムも、そうした選手の一人でした。「結果がどうなろうと、自分のベストを尽くす」と言って打席に立つことが、本当に必要な態度なんです。」

インドの夏

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ライトは2000年から2005年にかけてインドの代表チームを率いるインドで初の外国人監督となった。

彼は現在でも南アジアでは非常に尊敬されているコーチであり、過去7年間、IPL(インド・プレミア・リーグ)のムンバイ・インディアンズの監督を務めてきた。

インドは世界の4大宗教の発祥地であり、ライトがこれまで働いてきた他の国と精神的な違いを感じたのも無理はない。

「多くの少年たちは、かなり精神的な考え方を持っています。一人一人が、より大らかな心をもっていました。彼らは自分の宗教に関連した瞑想や祈りを行っていて、試合の前にはよく寺院に参拝していたものです。」

外国人は、「内なる平和」を見つけるために、毎年、飛行機で地球の裏側までやってきて、インドで最も有名なヨガや瞑想のセンターを訪れている。しかし、インド出身の人々にとって、それは生活の一部なのだ。

「たとえばキャンプでは、朝食の前にヨガのセッションをします。その分野の優秀な専門家がいるので、毎日ヨガを行い、みんなで楽しんでいました。その中で身体が最も硬かったのは私です。オーストラリアの理学療法士や南アフリカのトレーナーもいましたが、インド人の選手たちが一番上手で、生まれながらにヨガの才能を備えていました。

例えば、サチン・テンドルカールに『バッティングのとき、実際は何を考えているんだい』と聞くと、『うーん、本当に良いバッティングをしているときは、何も考えずにボールを見ているだけ』と言っていました。そのようなシンプルさと、試合で『きっとうまくいく』と思えることが重要なんです。」

ライトがインド人選手について気づいたもう一つの点は、彼らがよく眠ることだった。これは5日間連続の試合では過小評価できない特性だ。

「彼らは試合の期間中でも簡単に眠ることができ、大半の選手が更衣室でくつろいでいました。私が関わった他のチームの選手と比べても、彼らは心のスイッチを切り替えることに長けていると思います。」

ジョン・ライトは、2010年から2012年までニュージーランドのナショナルチーム「ブラックキャップス」の監督を務めたが、西インド諸島遠征後に辞任した。

その瞬間にとどまる

Image by Devanath from Pixabay

ライトは今ニュージーランドのノースカンターベリーに住んでいるが、1年のうち最後の2~3カ月はインドのクリケットリーグの最終戦を見るためにインドに滞在している。

彼は今でも瞑想を続けているが、以前ほど規則的ではなく、自分の日課がかつてのように規律正しくないことを認めていた。それでも、瞑想は人生をうまく過ごすためのツールだと彼は信じている。

「祈りや瞑想などを通じて、生活やスポーツの厳しさから自分を解放することができます。それは重要なことです。例えば、私はギターを弾きますが、これも同じように、心を落ち着かせる方法です。」

それが自然にできる人もいれば、そのために何かをする必要がある人もいるとライトは語った。

「私は規則的に瞑想を実践しているときに、成績がより良かったことに気づきました。私にとって、瞑想は大いに役立ったようです。

アヒルは表面では穏やかな顔をしていますが、水面下では足をバタバタさせています。そうではなく、水面下でも穏やかでいる能力が大切なのです。」

ソース:Mind Games: How John Wright was ahead of his time
写真はすべてイメージ

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